史幸便り
Vol.38 IPPC 第5次評価報告書 人間起源の温暖化が深刻に。
もはや地球環境の異常は、惑星管理責任(プラネタリー・スチュワードシップ)での管理が必要に?
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書から見えるもの!
2014年02月05日更新
■IPPCの第5次報告書が発表されました。
2007年に公表された第4次報告書に引き続き2013年に第5次報告書が公表されました。この間の6年で地球環境はかなり深厚な状況に陥り、人間起源の地球温暖化が起きていることが結論づけられました。
最も重い記述は、枯渇性資源の大量使い捨て、それに伴う地球温暖化、生物資源の絶滅速度の高まり等、時間的にさかのぼって変更・改善することのできない劇的な変化が起きているにもかかわらず、政策も経済も人間の都合に合わせているだけでは絶望的だという警告です。
下記はIPPC加盟各国の国立研究機関によって出された結論を要約したものです。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書 第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の主要な結論(速報版)
- 観測事実
- ◆気候システムの温暖化については疑う余地がない。1880〜2010年において、世界平均地上気温は0.85[0.65〜1.06]℃上昇しており、最近30年の各10年間の世界平均地上気温は、1850年以降のどの10年よりも高温である。
- 世界平均地上温度は数十年にわたって明確な温暖化を示しているが、その中には、おおむね10年程度の周期での変動や年々の変動もかなり含まれている。過去15年(1998〜2012年の世界平均地上気温の上昇率は1951〜2012年の上昇率より小さい。
- ◆1971〜2010年において、海洋の上部(0〜700m)で水温が上昇している可能性が高い。(新見解)
- ◆海洋の温暖化は、気候システムに蓄えられたエネルギーの変化の大部分を占め、1971〜2010年の期間ではその90%以上を占めている。(高い確信度)
- ◆過去20年にわたり、グリーンランドおよび南極の氷床の質量は減少しており、氷河はほぼ全世界中で縮小し続けている。また、北極の海氷面積および北半球の春季の積雪面積は減少し続けている。(高い確信度)
- ◆19世紀中ごろ以降の海面水位の上昇率は、それ以前の2千年間の平均的な上昇率より大きかった。(高い確信度)(新見解)
このままの推移では後20年程度で産業革命以前の平均気温をセ氏2℃突破する危険水域に入ることが警告されました。島しょう国のほとんどが水没してしまう危険が差し迫っています。 ヨーロッパの学者の間では、もはや国ごとの問題ではなく、自然の保全は人間の意志にゆだねられているのだから惑星管理責任(プラネタリー・スチュワードシップ)つまり、地球全体を丸ごと人間全体で責任を負わなければならないと主張しています。国単位のエゴではなく、地球全体を危機にさらすような生活を全面的に見直さなければいけないという考え方です。
■地球環境を意識したライフスタイルを人類共通の価値に。
宗教の別や政治体制の別、貧富の差などは関係なく、地球環境を守る為のライフスタイルが世界共通の価値にならなければならないというのです。
世界自然保護基金(WWF)や欧州連合(EU)は、すでに「ワンプラネット・リビング」(一つの地球で間に合う資源の利用で持続可能な社会・生活を実現すること)という考え方で現代の先進国で営まれている生活を全ての人々が行うとすれば、地球数個分の資源がなければ実現せず、いずれは破綻を来たします。
EUは一つの地球が持続できるライフスタイルを世界的に推進するというプロジェクトで動き始めています。現在、人間一人が年間14t使用している再生不可能な資源量を50年までに8tまでに抑制させ温暖化ガスの排出は、一人1tに抑える、これが実現できれば持続可能な生活が可能になるという明確な目標を掲げて、日常生活の様々なシーンでワンプラネット・リビングに適合する商品やライフスタイルを開発しようという戦略的な試みです。
■世界一の環境技術とアンバランスな日本の住宅性能。
日本の製品は、例えば自動車にしてもこの20年間、環境品質を極限まで高めることで進歩し、HV自動車や水素自動車など世界最先端の技術を開発しています。この日本が蓄積してきた現行技術を世界に普及させるだけでも温暖化ガスの排出を劇的に抑えることができるといわれています。
試算では、世界中の石炭火力発電に最も効率の高い日本の技術を導入すると二酸化炭素の排出は年間13億トン削減可能といわれています。
問題は産業部門ではなく住宅の環境効率を高めることで高断熱・高気密性能は、住宅の環境効率を丸ごと高めるためには絶対的に必要な技術です。
■惑星管理を効率的に行うためには物質循環を円滑に。
エコ・キュートやエネ・ファーム・高効率エアコン・テレビなどを含む省エネ家電や蓄電池技術は日本発の省エネ・環境技術で、部品の製造段階まで含めて二酸化炭素を数十%削減させる取り組みも国策で進んでいます。これから惑星管理を持続して行くという観点からは、物質のの循環をグローバルに人工的に構築していく方向が必要です。家電や自動車は100%のリサイクルが求められます。住宅の場合も同じように、住み替えという概念を定着させる必要があり、そのためには住宅の寿命を延ばす必要があります。
我が国の住宅性能が近年大幅に向上してきているのは、過去のしがらみを断ち切るような様々な性能基準の変更があったからです。
昨年10月の新省エネルギー基準の施行もこうした時代の流れを象徴しています。今まではQ値(熱損失係数)という基準で住宅性能が判断されてきました。
新基準では一次エネルギーの消費量という、石油や石炭、天然ガス等の使用量に換算する個別的な確実な住宅性能表示に変わりつつあります。熱損失係数から熱貫流率が求められるようになり現実的に変更しています。
2020年には、現行基準が守れない住宅は建てられなくなり、2030年には住宅エネルギーが0になる、0エネルギー住宅の実現も国の住宅高性能化の工程表に入っています。
我が国の政策の中には、惑星管理責任(プラネタリー・スチュワードシップ)の思想は確実に盛り込まれています。
史幸工務店が高性能住宅にこだわり、現在もなお住宅の性能を向上させるために努力しているのはこうした環境問題にも微力ながらも真摯に取り組んでいきたいと考えているからです。
■温暖化対策、日本は50位、中国にも抜かれて「落第」グループ。
昨年12月の産経新聞にこんな記事が載っていました。
【世界の主要58の国と地域で、地球温暖化対策が最も進んでいるのはデンマーク。日本は50位で「落第」とする温暖化対策ランキングをドイツの環境シンクタンク「ジャーマンウオッチ」などがまとめた。温室効果ガスの排出量が増加傾向にあるため2013年の日本の順位は前年の44位から後退し48位から46位にランクを上げた中国にも抜かれた。中国は再生可能エネルギーが大幅に拡大していることなどが評価された。
温室効果ガスの排出量や再生可能エネルギーの比率、エネルギーの利用効率に関するデータに、政策分析の結果を加えた指標を作り採点した。
産業革命以降の気温上昇を2℃未満に抑える国際目標の達成に向け十分な対策を取っている国がないことから前年度と同様、1~3位は「対象国なし」で、トップは4位のデンマーク。日本はエネルギーの利用効率でやや成績がよかったものの47位・21点で「落第」とされた15の国と地域の中の一つに。大排出国の米国は43位、インドは30位だった。】
この記事を読んで愕然とされた方も多かったと思います。
PM2.5で大気汚染大国の中国よりも日本の方が温暖化対策では後れを取っているばかりか、アメリカやインドよりも下位にあるのです。
落第国15ヶ国の中に入っているというのですから驚かないわけにはまいりません。
しかしこれが現実です。我が国の環境政策は原子力発電なしでは語ってこなかったのですから、いかに原子力発電に頼ってきたのか、それが停止してしまえば完全な落第国なのです。
ここでは原子力発電の善し悪しを言うつもりはありませんが、もう少し懐の深い環境対策やエネルギー政策が必要なのではないかという疑問が皆様にも芽生ええているのではないでしょうか。
地球温暖化が急速に進み、産業革命以前の2℃以内の気温上昇に抑えるという世界的なプロジェクトに参加している先進国としては、かなりお粗末な話に思えます。原子力発電が稼働しているときに、自然エネルギー開発にも、もう少し力を入れておくべきだった様で停止してから騒いでも後の祭りです。
アメリカの原住民のナバホ族には「自然は未来の子孫からの借り物」という諺があると言うことですが、我々日本人も、未来を綺麗なままの地球で残してあげたいという思いがあれば、ワンプラネット・リビングを思い起こしてほしいものです。
■遅れれば遅れるほど危機が増幅していく地球環境。
IPCCは、各国が我が国のように本格的な対策の開始を2030年まで遅らせた場合、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃以内に抑えるという国際目標の達成が困難になるとして加盟各国に早期の対策の実施を求めています。IPCCの温室効果ガスの削減対策を担当する作業部会が、まとめた最終案では、国際目標の達成について、393ppmに達している現在の世界の二酸化炭素の平均濃度を2100年の時点までに430ppmから480ppmの範囲以内に留めることができれば、産業革命以前に比べて2℃以内に抑えるという国際目標は達成できる可能性が高く、480ppmから530ppmの範囲でも目標を達成できる可能性は5割以上だと予測しています。
但し、この場合も各国が現在掲げている削減目標では、数量的には不十分で、このまま対策の開始を2030年まで遅らせることがある場合は、平均濃度を530ppm未満にとどめるために、まだ実用化されていない、二酸化炭素を大気中から分離除去する新技術の開発が必要になり、目標の達成がより困難になるとして、今できる早期の対策の実施をもとめています。
■第2作業部会では人間や自然の適応限界を超えると警告。
新年早々に原案が明らかになったIPCCの第2作業部会報告書では「地球温暖化によって食料生産が減少し人間の安全が脅かされている」と指摘しています。
今年3月に横浜市で開かれるIPCCの会合で、国連の気候変動に関する政府間パネルが7年ぶりに改定され報告書を承認する事になっていますが、その内容は「温暖化が進むほど克服困難な悪影響が広範囲に生じ、人間や自然が適応できる限界を超える恐れが高くなる」と従来以上に踏み込んで、危機を警告する内容が示されています。
「今後数十年で温室効果ガス排出を抑制できれば、今世紀後半の気候変動リスクを軽減できる」として、第2作業部会の報告書もまた各国の環境対策、政策立案の基礎資料になり、温暖化対策をめぐる国際交渉に大きな影響を与える事になります。
第2作業部会報告書の原案は熱波や洪水、生態系の異変など気候変動の深刻な悪影響が「既に陸、海とも広範囲で観測されている」と指摘しており、特に小麦、米、トウモロコシなどの穀物生産は今後10年ごとに0~2%減るとし、食糧危機の到来を予告しています。
産業革命前と比べて世界の平均気温が2.5℃上昇すると、世界経済の損失は、収益合計の0.2~2.0%に達するとしており、温暖化によって飲料水や漁業資源の分布も大きく変わり、分配をめぐって国家間の紛争が増える恐れがあるという報告になっています。